HAIR MICROSTRUCTURE

毛髪微細構造の
すべて

美容師のための、毛髪内部構造ガイド

監修 佐原龍一(株式会社フィラーレ) 用途 教材/セミナー投影 更新 2026.05

01|HOW TO READ

この資料の使い方

14のセクションで、毛髪の表面から中心まで順に理解できる資料です。各章は1スクロール=1スライドの粒度で組まれているので、読む資料としても、セミナーの投影資料としても使えます。

02|COMPOSITION

毛髪の約80%
ケラチンタンパク質。

残りは、水分(10〜15%)、メラニン、脂質、微量成分など

このケラチンは、複数の アミノ酸 が連なってできています。なかでも特徴的なのが シスチン です。シスチンはS-S結合をつくり、髪の弾力や形状保持に大きく関わります。

グルタミン酸やアルギニンなどのアミノ酸は、水分とのなじみやすさにも関係します。グリシン、アラニン、セリン、スレオニンなども含め、アミノ酸の種類と比率が毛髪の性質を左右します。

サロンでの一言:「髪の大部分はタンパク質で、そこに水分・脂質・メラニンなどが関わっている」と覚えておくと、シャンプー・トリートメント・カラー・パーマがどこに作用するかを説明しやすくなります。

03|THREE LAYERS

毛髪は3層でできている表面・大半・中心、それぞれに役割がある

外側

キューティクル

毛髪を守る無色透明のウロコ。瓦屋根のように重なる。毛髪全体の10〜15%。ツヤ・手触り・硬さを決める。

中間

コルテックス

毛髪の大部分を占める繊維質の領域。水分保持、強度、髪色に関わる。薬剤反応の主な対象になる部分。

中心

メデュラ

髪の中心に見られる髄質。太い毛では見られやすく、細い毛では不連続または見られないこともある。機能はまだ未解明な点が多い。

04|CUTICLE 9 LAYERS

キューティクル:
表面を守る多層構造

外から見えているキューティクルは一部だけです。毛髪の周囲では複数枚のキューティクル細胞が瓦のように重なり、表面を守っています。それぞれの層は性質が異なるため、薬剤や水への反応も変わります。

キューティクル9層の断面図(エピCu/A-Layer/エキソCu/エンドCu)

キューティクル断面:F-Layerから最深層まで

01F-Layer 最表面の脂肪酸層18-MEA/疎水化
02エピキューティクル硬く脆い/物理に弱い
03A-Layerシスチン35%/アルカリに強い
04エキソキューティクルシスチン15%/化学処理に弱い
05エンドキューティクル親水性/S100A3を含む
06inner-Layerシスチン豊富/親水性
07Lower-β層CuCMC/脂質が疎に存在
08δ層CuCMC/水・水系薬剤の通り道
09Upper-β層CuCMC/脂質が密に存在

薄オレンジ=油層(β層)/薄グリーン=水層(δ層)

05|F-LAYER & 18-MEA

F-Layerと18-MEAという
最表面の保護層

F-Layerと18-MEAの構造図

F-Layer:18-MEAが毛髪表面を疎水化する

キューティクル最表面に並ぶ脂肪酸

F-Layerはキューティクルの最表面にある脂肪酸層で、代表的な成分が 18-MEA です。18-MEAは毛髪表面を疎水性に保ち、水のなじみやすさや摩擦感に影響します。

F-Layerは手触りと撥水性に関わる

キューティクル本体が残っていても、アルカリ薬剤やパーマ・カラーで18-MEAが先に失われることがあります。この場合、顕微鏡ではキューティクルが残っているように見えても、手触りや撥水性は低下します。さらにキューティクル自体が剥がれた部分では、構造的にも水や薬剤が入りやすい状態になります。

パーマ・カラーで18-MEAは失われやすい:アルカリ環境や酸化処理の影響を受けるため、施術後に手触りが落ちる要因のひとつになります。表面の疎水性をどう補うかが、トリートメント設計の重要な視点です。

補足:18-MEAだけで説明しきらない:18-MEAの減少は疎水性低下の重要因子ですが、毛髪表面の変化はエピキューティクルの劣化、洗浄・摩擦・紫外線などのウェザリングも関係します。「18-MEAがない=必ず即座に完全親水化」と単純化せず、表面脂質とキューティクル表層の両方を見ると説明が安定します。表面脂質の量や組成は、民族差、損傷履歴、施術履歴によっても変わります。

06|CUTICLE 4 LAYERS

キューティクル細胞内の
4つの層

F-LayerとCMCを除いたキューティクル細胞の内部は、性質の違う4つの層が積み重なってできています。シスチン含有量や親水性が違うため、薬剤への反応も層ごとに異なります。

シスチン量 性質と弱点
エピCu(最外) 化学薬品に強いが、硬く脆い。コーミングなどの物理刺激に弱い
A-Layer 35% アルカリに強い/還元剤に弱い。薬剤の壁になる層
エキソCu 15% S-S結合が多く、化学処理に弱い
エンドCu(最内) 微量 酸性・塩基性アミノ酸が多く親水性。S100A3を含み、アルカリの影響を受けると水を含みやすくなる
キューティクル全体の構造図
キューティクルの重なりと内部層

07|CORTEX HIERARCHY

コルテックスは
細かな繊維の複合体

コルテックス細胞の中では、葉巻状のマクロフィブリルが束になっています。その中にはさらに細いミクロフィブリルがあり、さらに細かく見るとテトラマー、ダイマー、モノマー、最後に主鎖(ペプチド結合)へと分かれていきます。つまりコルテックスは、太い繊維の中に細かな繊維が重なった複合構造です。

図中用語メモ

ケラチンIF
毛髪内部で繊維状の骨格をつくるケラチン中間径フィラメント。
プロトフィラメント
ケラチンIFを構成する、より細い集合単位を模式的に示したもの。
KAP・マトリックス成分
ケラチン線維を取り巻くマトリックス側のタンパク質群。線維間を埋め、構造や硬さに関わる。
非フィラメント状タンパク質
線維状に並ぶケラチンとは異なり、周囲を埋めたり相互作用したりする成分。
  1. L1
    コルテックス
    毛髪の85〜90%/葉巻状で縦に長い/長さは毛髪の直径とほぼ同じ
  2. L2
    マクロフィブリル
    数個〜数十個のミクロフィブリルの集合体/周りをマトリックスが包む
  3. L3
    ミクロフィブリル
    複数のテトラマーが集まった繊維構造/周囲をマトリックス成分が埋める
  4. L4
    テトラマー
    ダイマー2本がイオン結合した構造
  5. L5
    ダイマー
    モノマー2本が螺旋状に巻きついたロープ状
  6. L6
    モノマー(主鎖)
    アミノ酸がペプチド結合で連なった1本鎖/NH₂とCOOH

マクロフィブリル(青枠)

α-ケラチン(現代的にはIF:ケラチン中間径フィラメント)と呼ばれる繊維状ケラチン。α-ヘリックスの螺旋構造を持つ。シスチン含有量は6〜8%と低く、結晶性で硬く、化学反応を受けにくい。コルテックスの35〜45%。

マトリックス(赤枠)

γ-ケラチン(現代的にはKAP:ケラチン関連タンパク質)と呼ばれてきた間充物質。短いランダムコイル状で、シスチン含有量が高く、非結晶性で柔らかい。パーマ剤が反応しやすい領域のひとつで、過度な反応は損傷につながりやすい

08|PARA × ORTHO

パラとオルトの偏りが
クセ毛をつくる

コルテックスのオルト/パラ分布図

パラ様/オルト様コルテックス分布と、うねりやすさの比較

2種類のコルテックスが混在している

コルテックスは均一ではなく、性質の違う2種類が一本の中に混ざっています。

パラCoシスチン多(架橋密)/硬い/疎水性
オルトCoシスチン少/柔らかい/親水性

分布が偏ると毛がねじれる

コルテックス内でオルト・パラの分布が偏ると、毛髪の断面内で収縮差が生まれます。この差が大きくなるほど、うねりやねじれが強くなり、 縮毛 として現れやすくなります。

直毛毛穴がまっすぐ/オルト・パラの分散が均等
天然パーマ毛包の曲がりやコルテックス分布の偏りで、ゆるい〜強いうねりが出る
縮毛オルト・パラの分布差や毛包形状の影響が大きく、ねじれや縮れが強く出る

クセ毛の原因は「毛穴の形」と「コルテックス分布の偏り」の2軸で説明できる、と覚えると施術の根拠を伝えやすくなります。

補足:人毛では「パラ様/オルト様」として扱う:このページではサロン説明に使いやすいよう、人毛のコルテックス内に見られる性質の違いをパラ様・オルト様として整理しています。人毛は羊毛ほど単純に二分できるとは限らないため、「どちらか一方だけがクセ毛の原因」と断定せず、毛包形状、断面形状、コルテックス分布の偏りが重なってうねりに関わる、と説明すると安全です。

09|CMC

CMCは
細胞と細胞をつなぐ接着層

キューティクル同士、コルテックス同士は、それぞれの間にある CMC によってつながっています。CMCは脂質を含むβ層と、タンパク質を含むδ層を持ち、薬剤の通り道としても重要な役割を担います。

CMC:CoCMCとCuCMCの比較図(β層・δ層)

CMCの繊維と油分の構造

2つのCMC:CoCMCとCuCMC

CoCMCコルテックス同士の間/β層とδ層が複合的に存在
CuCMCキューティクル同士の間/β層とδ層が規則正しく配列

β層(油層)

パルミチン酸・オレイン酸・コレステロール・セラミド・硫酸コレステロールなどの脂質が並ぶ。油系の薬剤の通り道。アルカリで流出しやすい。CuCMCのβ層には、F-Layerと同じく18-MEAが含まれている。

δ層(水層)

ケラチンタンパク質と非ケラチンタンパク質で構成。水や水系薬剤の通り道。水を含むとδ層が広がり、キューティクルが持ち上がりやすくなる。ダメージ毛で「キューティクルが浮く」と表現される現象の一因になります。

「内部の接着層」と「外部の接着層」:CoCMC(内部)はタンパク質成分の役割が大きく、CuCMC(外部)は脂質成分の役割が大きい構造です。外側ほど、油分による保護やすべりの影響が大きくなります。

補足:薬剤設計ではCMCを通り道として見る:CMCは細胞同士を接着するだけでなく、水系・油系成分が毛髪内へ入る経路としても重要です。実務では、薬剤のpH、分子サイズ、電荷、水性か油性かによって入り方が変わるため、「CMCを整える=薬剤や補修成分が通る環境を整える」と考えると設計しやすくなります。CMCはキューティクル同士、キューティクルとコルテックス、コルテックス同士の間で性質が少しずつ異なります。

10|FOUR BONDS

毛髪をかたちづくる
4つの結合

毛髪は1本のロープではなく、4種類の結合で立体的に組まれた網のような構造です。何で切れて、何で戻るかが結合ごとに違うので、シャンプー・ブロー・パーマ・カラーが毛髪のどこに作用しているかが整理できます。

  • 水素結合70%
  • イオン結合20%
  • シスチン結合10%

側鎖結合を現場説明用に整理した目安

結合切れる条件戻る条件
主鎖
(ペプチド結合)
通常のサロン施術では基本的に切断対象にしない/強アルカリ条件では分解リスクが高まる サロン施術では再形成を狙わない
水素結合
(側鎖70%)
水で濡らす 乾かす(ブロー・セットの根拠)
イオン結合
(側鎖20%)
等電点(pH4.5〜5.5)からアルカリ性/酸性に偏る 等電点に戻す
シスチン結合
(側鎖10%)
還元剤(+H)/パーマ1液 酸化剤(+O)/パーマ2液

パーマの原理:シスチン結合は比率こそ少ないものの、毛髪の形状固定に大きく関わります。そのため、1液で還元(切る)→形を作る→2液で酸化(戻す)という流れでカールを定着させます。

11|MELANIN

メラニンには
2系統ある

毛髪の色を決めているのはメラニン色素ですが、これには性質の違う2種類があり、その混ざり具合と量と粒の大きさで毛髪の色が決まります。

EUMELANIN

ユーメラニン

黒〜茶系の色素。日本人の黒髪では量が多く、髪色の深さに大きく関わります。

PHEOMELANIN

フェオメラニン

赤〜黄系の色素。ブリーチ後に残る赤味・オレンジ味・黄味の見え方に関わります。

メラニンはコルテックス内(マクロフィブリル間のマトリックス)に分布していて、毛乳頭付近の色素細胞で生成されます。日本人の場合はユーメラニン優位ですが、フェオメラニンの混ざり量で「ベースのトーン」が大きく変わります。

カラーの設計に直結:ブリーチでは黒〜茶系のユーメラニンが分解されるにつれて、赤味・オレンジ味・黄味が見えやすくなります。残留する暖色をどう補正するかが、アンダートーン設計の基本です。

12|WATER & pH

水とpHが、毛髪を
膨らませたり縮ませたりする

NMF(結合水)

マトリックス中のNMFは、毛髪内部で水分保持に関わる成分です。乾かしたあとも、毛髪には一定量の水分が残ります。

結合水毛髪水分量の11〜14%(常時)
シャンプー時水分量28%まで上昇
ダメージ毛のシャンプー時32〜34%まで上昇
断毛ライン水分量36%以上、または8%以下

毛髪のpHスケール

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枠付き=等電点(pH4.5〜5.5)

pH2以下毛髪が溶解する
pH3以下毛髪が収縮
等電点(4.5〜5.5)イオン結合が安定しやすい領域
pH6以上膨潤が始まる
pH11強く膨潤し、直径や断面積が大きく増える

pHは水素イオン濃度を対数で表した指標です。pHが1変わると水素イオン濃度は10倍変化するため、pH7からpH9への変化は、数字以上に大きな環境変化として毛髪に影響します。

補足:等電点の文献差:サロン実務では毛髪が安定しやすい弱酸性域としてpH4.5〜5.5を基本に扱います。一方で、毛髪表面の測定ではpH4.0未満を等電点として報告する文献もあります。説明では「基本はpH4.5〜5.5、研究上は測定方法や対象部位で差がある」と添えると誤解を避けられます。

補足:水を含むと直径方向に出やすい:毛髪は水を含むと膨潤しますが、変化は長さ方向より直径・断面積に出やすいと考えると現場説明に使いやすくなります。濡れた髪が柔らかく、薬剤や摩擦の影響を受けやすいのは、水分で内部構造の動きやすさが増すためです。

毛髪とpHの関係:pH2〜12での膨潤と収縮
毛髪とpH:等電点・膨潤・収縮の関係

13|MEDULLA

メデュラは中心にある
未解明な点が多い領域

メデュラ:毛髪中心の髄質

メデュラ:毛髪中心の髄質

毛髪の中心に見られる領域

メデュラは毛髪の中心に見られる髄質です。太い毛では連続して見えることが多く、細い毛では不連続だったり、見られないこともあります。

コルテックスとは性質が違う

メデュラはコルテックスとは異なる構造を持ち、空隙や非ケラチン性成分を含むとされています。毛髪の太さや個人差によって、見え方や連続性が変わります。

役割は未解明

断面の形や量には個体差が大きく、機能的な役割は今も完全には解明されていません。サロンで説明する場合は、「髪の中心には、太さや個人差によって見え方が変わるメデュラという領域がある」と伝えると自然です。

14|APPLY

サロンの現場で
使える視点

微細構造は、知識として覚えるだけでは現場で活きません。お客様への説明、薬剤選定、トリートメント設計に結びつけてはじめて価値が出ます。ここでは、明日から使える視点を9つに整理しました。

  • 髪の大部分はタンパク質でできている
  • キューティクルは表面を守る多層構造
  • F-Layerはアルカリで流出しやすい
  • エンドキューティクルは水を含みやすい
  • マトリックスはパーマ剤が反応しやすい領域
  • クセ毛はパラ/オルトの偏り
  • 水素結合はブローでつくる
  • シスチン結合がパーマで動く
  • 等電点に戻すと髪は安定する

DAMAGE FLOW

ダメージは表面から内部へ段階的に進む

外側から内側へ進むダメージ深度の模式図
外側から内側へ進むダメージ深度の目安

図と5段階フローの読み分け:上の図は構造深度ごとの細かな進行を示し、下の5段階はサロン説明用にまとめた流れです。実際の進み方は施術条件、既存ダメージ、毛髪の太さや疎水性によって前後します。

  1. 01pHがアルカリへ傾くキューティクルが膨潤し、水や薬剤が入りやすくなる
  2. 02CMCが乱れる細胞同士の接着と、水系・油系成分の通り道が不安定になる
  3. 03キューティクルが浮く・剥がれる摩擦、ツヤ低下、手触りのざらつきが出やすくなる
  4. 04コルテックス成分が流出するマトリックス成分や水分保持力が落ち、内部が空きやすくなる
  5. 05疎水性から親水性へ寄る乾きにくい、広がる、補修成分が定着しにくい状態につながる

これらは、目の前のお客様の髪に何が起きているかを言葉で説明するための地図です。地図を持っているだけで、施術の根拠も、ホームケアのアドバイスも、まったく違う密度になります。

硬毛と軟毛の構造比較
硬毛と軟毛:直径とコルテックス量の差